これは『ヴァンパイア・ザ・マスカレード』というTRPGの、サプリメント(追加設定資料集)です。ゲームとして遊ぶには基本ルールである前掲書が必要ですし、ヴァンパイアについての説明は同書のほうが詳しいようです。ハヤカワSFで日本語版が出ているナンシー・A・コリンズの『ミッドナイトブルー三部作』はこのTRPGに色濃く影響されており、外伝『ブラック・ローズ』にこの『キヤマリリャ(書中ではキャマリラ)』の名前が出てきました。『キャマリリャ』は伝統的な西洋貴族社会の形式を踏襲するヴァンパイアたちの、最大クラン(共同体)です。そのクランの伝説、習慣、演じるキャラクターに課せられるタブーや特典といったものを細かに紹介しています。『ヴァンパイア・ザマスカレード』に代表されるこのホワイトウルフ社のゲームは、「ストーリーテリング・ゲーム」と銘打たれるに相応しい、緻密な設定が売り物です。それも、緻密すぎないのです。設定マニアの成果発表本にならないレヴェル、つまり、ゲームに使うことをちゃんと忘れずに書かれた、演出のネタとして完成されたレヴェルの本なのです。もしTRPGゲーマーでなくとも、吸血鬼が好き、とか、こうした影の世界の眷属について物語を書いてみたい、といった趣味を持った人であれば、この本ははかり知れない価値をもつ一冊となるでしょう。