1922年の作品、次作は「ミカエル」。
しばらくドイツで映画を撮っていたドライヤーがデンマークに帰って来て撮った作品とのこと。
プリントは、デンマークの映画アーカイブのネガを使用したもの。
映画全体は完全な形のフィルムが存在しなかったので、もともとあったプリントに欠落部分の短いフィルムやスチール、そして字幕などで補って物語の全体像を再現したとのことです。
全体を見てみると、程度は相当悪いと言わざるをえません。
ドライヤーの初期作品を見ることのできる有難さをかみ締めながらも、突き放してみればキズだらけで、不自然なスチールの挿入が多々あり、お話を理解できるようにと多量の字幕が入り込んでいます。
とてもファンで特別な興味のある人以外には勧めることはできません。
他の最重要作品を見て、それでもなお興味のある人のみ購入を検討したほうが良いと思います。
一般的な意味では、以前出ていたBOX程度の作品を見れば十分だと思います。
さて、個人的な感想です。
私の興味は「ミカエル」の直前作であることでした。
お話は「つぐみのくちばしの王子」と同じ。
驚いたのはその映像の精緻さと美麗さ。
衣装や美術は壮麗で、映像は猛烈に耽美的です。
この流れは「ミカエル」にも受け継がれているように思います。
また、ところどころには幻想的な描写が見られ、既に「吸血鬼」を思わせる表現も見られます。
面白かったのは、デンマークで撮ったからかどうか分かりませんが、伝統的なドイツの映画作りとは違う爽快感が漂っていることです。
これはロケーションを多用していること、メイクが自然なことによるように思います。
鬱蒼とした森、風の吹き抜ける草原など、どこか風通しがよい気がしますし、厚い白塗りに強い光を当てたような人物ではなく、現代風で素直な人物描写は軽快です。
この風景は「奇跡」の荒涼としたデンマークの風景に繋がります。
ここから「ミカエル」に発展し、「吸血鬼」「奇跡」「ゲアトルーズ」に到達すると思うと、どこか感慨深いシーンが沢山見られます。
興味深いのは、22年といえばムルナウは「吸血鬼ノスフェラトゥ」、そして次の年に「フォーゲルエート城」を、フリッツ・ラングは22年に「ドクトル・マゼブ」を作っているところ。
それぞれの作品を各監督は見ていたのかどうか、気になるところです。