ありがたいことに、「哲学者の難解な思想を分かりやすく・コンパクトに解説してくれる入門書」というものはけっこうあるものです。
特にその哲学者が偉大であればあるほど、エレガントで読みやすい解説書が存在します。深淵な思想ほど研究者の層が厚くなり、結果として優れた人材が集まるのでしょう。
カントという哲学者もまた例外ではありません。私が知るだけでも黒崎政男氏や石川文康氏、坂部恵氏や岩崎武雄氏といった人達が希有な入門書を書いています。
ただ、そうした入門書にも決定的な弱点(というよりは私自身の無能力なのですが)があったように思います。
かつて私も入門書を読むたびに、「なるほど、カントはこういう考えをもっていたのか。よし、それでは実際に『純粋理性批判』を読んでみよう」と思い立って書物に向かいました。
でも全然読めないんですね。試みるたびに、カントの難解な文章に阻まれてしまう。
入門書のおかげて、「この部分は大体こんなことが書いてある」というアウトラインは分かります。でも本文のある箇所が具体的にどういう議論をしていて、どういうことを云っているのかが「逐語的レベル」ではさっぱりわからないのです。
本書は、読者のそうした躓きにこたえてくれるものです。
「『純粋理性批判』のこの箇所はこう読む」という実に丁寧な仕方で、カント哲学における「主観」という概念を解説してくれています(なお、ドイツ語の“Subjekt”には1文法上の主語、2基体=実体、3意識作用の主体という三つの基本的意味があるそうです)。
哲学者の思想を分かりやすく解説してくれる本ももちろん大変ありがたいのですが、こうした逐語読解的な入門書はより読者の助けになってくれると思います。