この本は“純粋理性批判”を読む前にその理解を助ける指針として読み、後で内容をよりいっそう理解するために読んでも役立つ本だと思います。 カントの自我論−自己とは何か、に焦点をしぼって書かれてあります。 自己と他者、自己は世界をどのように見、認識できるかがカントのテクストに沿って掘り下げられています。 デカルト以来のコギトの考え方ですね。 真実とは何か、という言葉を人は口にしますが、そもそも自己というものが何か分からない限り真実があったところで自分はそれを知りえるのか、どうやって知りえるのか、知ったところでそれがなんの役に立つのかもわかりません。 これは一種の人間の盲点というもので、だからカントは自己というものを徹底的に見つめることの重要性を説いたのでしょう。 筆者も言っている通り、かなり抽象的で難しい内容なのですが、私のような素人でも何とか理解可能なレベルで書かれています。 ありがたいのは全体の章の中で、どの部分から読んでいったら分かりやすいかが初めに記してあるところ。
とにかく“純粋理性批判”だけは、ある程度の解釈本を読んでから実物に挑戦しないと難しすぎます。 この本にはそういう意味で助けられました。 ただし、この本はあくまでも“自我論”に的を絞って書かれた本なので、これ一冊でカント哲学の全貌を捕らえることはできません。 巻末に、カント学者として、あるいは人間としての中島氏の苦悩がこの本を生んだ、その軌跡が短いけど切実な文章で書かれていてけっこう感動的でした。