昭和40年代後半の国鉄で働く客扱専務車掌(カレチ)を主人公に、鉄道業務に携わるさまざまなプロたちの人間模様を描いてく連作シリーズの第3巻。このシリーズの魅力は先輩から後輩に仕事の精神が継承されてゆく様子にある。新米カレチだった主人公の荻野も、今では後輩たちの憧れる中堅になっている。荻野が先輩たちから教えられ鍛えられてきたように、今は荻野が後輩を教え導き鍛える番になっているのだ。
この巻からは荻野を結婚させようと車掌長があれこれ世話を焼くエピソードが続くが、荻野に「どうしてここまで世話を焼いて下さるんですか?」と問われ、チーフが「それはな……かつてこの俺も先輩たちから世話を焼いてもらったからだ」とつぶやく場面がある。自分が結婚できたのは先輩たちや周囲の人たちのおかげだった。「だから今度は……俺の番なんだ」と言うチーフ。これもまた、同じ職場で同じ釜の飯を食う仲間たちが、何かしらの精神を継承してゆくという作品テーマの変奏曲だろう。終身雇用や年功序列が崩れ、どの職場でも非正規雇用が増えている今、仕事を伝え、私生活まであれこれ面倒を見合う文化は失われてしまったのかもしれない。
劇中の時代は昭和40年代後半という漠然としたボカシ方をしてあるが、今回は志織が映画を選ぶ場面で『エクソシスト』『追憶』『スティング』などのタイトルが並び、これが1974年(昭和49年)の夏の話であることがわかる。
単行本のおまけは、巻末に収録されている「荻野カレチの夢のハネムーン」。志織と結婚した荻野が宮崎に新婚旅行に行くという話なのだが、これには大笑い。本編のリアルでシリアスなタッチとは打って変わった楽しさだ。