長いこと意識していた作品だった。でも分厚さから読むのに踏み切れない時期が長く続いた。よーやく入手し、仕事が超忙しかったけど、合間の時間をフルに動員して一週間で読了した。「もっと早くこの作品を読めばよかった」と食わず嫌いを悔いた。
ポエニ戦争について、(主人公「ぼく」と同様に)当方もハンニバルとスキピオぐらいしか知らなかった。(そんな読者が多数であることを見越して?)聞きなれない人物の血縁や業績についてやターニングポイントになる事件について、主人公「ぼく」が丁寧に反復して説明してくれている。眉村先生が若い読者でもテンポ良く読めるように配慮してくれた親切描写が心地よかった。図々しいようだが、年表や人間関係図や(戦争中の)軍団配置図なども掲載されると、より読みやすかった。
かなり前だけど、セガのテレビゲーム 「アドバンスド大戦略」のキャンペーンモードにはまっていた。ナチス・ドイツ軍を指揮し、連合国に勝つのが最終目標。ただし、各シナリオごとの勝敗によって、次のシナリオが変動する。過去のシナリオには戻れないという仕組みだった。作中では、囲碁が例示されているが、「アドバンスド大戦略」のキャンペーンモードのほうがイメージしやすかった(どーやっても勝てないところが特に!)。歴史を変えるのは本当に難しい。
当方が、2011年3月10日に行き、東北太平洋沿岸部を辻説法して巡回したとしても、誰にも相手にされないだろう。いくら戦争の敗因を知っているとしても、風来坊の辻説法では誰も相手にしてもらえない。地位と権限のある人間に信頼されるだけの実績が不可欠だ。戦争直前に出現しても手遅れだ。戦争には相手もいる。内輪もめに付け入られたり、物量で圧倒する作戦もある。歴史の将来の展開を知っていても多勢に無勢だ。
それでも、同じチャンスがあれば、読者の誰もが「ハンニバルが戦争に勝利し、カルタゴが地中海の覇者になる」ことを望み、全身全霊を捧げると思う。歴史を変える魅力は何にも変えがたい。主人公「ぼく」と同様に、当方もハンニバルの勝利を願いながら読み続けた。カルタゴ滅亡より千年以上後だが、東ローマ帝国もコンスタンティノープルの陥落で滅亡した。織田信長が好んで口ずさんだ幸若舞の敦盛の一節を、ハンニバルが聴いたらどう思うか気になった。
長い旅路の終着点で、主人公「ぼく」が、望む時代・望む物を訊かれるシーンがあった。自分だったらどうするか考えた。普段の日常でいいじゃん。過去にフラれた女性と結婚したって幸せにはなれない。もし望みがあるとすれば、健康にかかわることだけだ。「物理・化学の教科書の数行の記述が、一人の科学者の一生だ」という話を聞いたことがある。個人の一生で出来ることには限界がある。歴史上の大イベントの当事者になれた経験を記録として残せるだけで十分な名誉だと思う。
比較的なじみの薄い時代であるにもかかわらず、壮大な国家の興亡をテンポ良くドキドキしながら読める展開に星五つです。分厚いですが、途中で挫折する心配はゼロです。