これまでの黒沢作品よりずいぶん抽象的な作風だ。しかも監督自身が言っているように、作品が一切のジャンルに属さない。ホラーになったり、サスペンスになったり、と思いきやアクションがあって、それでいてコメディみたいな。ナンなんだ!?と嘆きながらも、その異様な世界観に引き込まれていく。
不気味で荘厳と思いきや、俗的で馬鹿げたやり取りが出てきたり、ワライダケむしゃむしゃ喰らって、ケラケラしたかと思ったら、半ば白骨化した死体が吊り下がってたり、驚くほど生々しいハンマー殺人がスローで延々行われたり。少しもこちらの想定内に収まらない演出だ。しかも登場人物たちのバックグラウンドがほとんど何も分からないまま物語は終始する。そもそもどう物語が始まって、終わっていったのかが、曖昧である。
一本の樹木を巡って、それぞれの人間たちがそれぞれの意見をぶつけ合い、間に挟まれた役所はどう現実を捉えたらいいのかと呆然とする。カリスマはマイペースに森を破壊し、逆に森はカリスマに歩み寄る。なんか今日の世界政治や宗教戦争みたい。一つ(もしくは一人)のカリスマが資源を略奪し続けているにも関わらず、人はそこに擦り寄っていく。そしてそれを囲む人間たちが、それぞれのファクターを抱えてカリスマや森を議論する。
法則を回復せよ。役所に与えられたテーマだが、あまりにも広大かつ果てしない難題だ。そして役所の選択は、全てを生かし、全てを殺す、あるがままに。そして「CURE」を彷彿させる役所が神格化してしまったかのような、謎のラスト。う〜ん...、悩ましげ。しかし「アカルイミライ」も含めて、黒沢監督ってのは自然界をテーマにするね、といって単純にエコロジストというようなわけでもなく、そもそも自然界は人間界を考えるキッカケになっているようだ。
どうでもいいけど、役所の着てたコートよこせっ!