ピカソのある一時期の一作品を観るだけで、すぐさまその価値を理解できる人は少ないだろう。それにはある程度理詰めの学習が必要とされるからだ。しかし一度ピカソの生涯に亘る作風の変遷とその当時の社会的あるいは美術的動向に目をやるなら、そうした作品の必然性と彼の美学を受け入れることができる筈だ。デュシャンの『泉』ではサイン入りの便器が芸術作品になりえるとすれば、その理由はその時代の社会背景と彼の思想にある。20世紀美術を理解するには、視覚や個人の美的感覚に頼るだけでは不充分で、アーティストのイデオロギーを知ることが不可欠になる。というのもこの時代の芸術家たちは自ら改革者、あるいは伝統の破壊者としての自覚を持って作品の想像に携わっていたからに他ならない。
本書は加速度的で、また同時多発的な現代美術史の動向を平易に、しかも話題に上る画家や彫刻家の作品を小さいながらも最低一枚のカラー写真を掲載して解説しているところに特徴がある。また巻末には美術史の系譜と掲載された作品のデータ、それに簡単な用語解説集と参考文献及び人名索引が付けられた懇切丁寧な編集になっている。