この本は、比較的に新しい街、とは言っても渋谷や新宿などではなく、関東大震災後(1923年)に発展し、変化した街を取り上げて書かれている。
関東大震災によって東京の古い街が破滅し、その後どんどん新しい街並みが造られた。しかし、そんな街並みも約90年経った今では、すっかり古びている。そんな街が今新しい時代を受け入れながら変化し、老いながら今もいきいきとしている街もある。そうした街の盛衰を感じ取ることこそが散歩のおもしろさだと著者は言っている。
大正〜昭和期にかけてつくられた住宅地や団地や商店街を中心に、「居心地のよい空間」を探訪し考察しようという著者の思いが伝わってくる。とりわけ同潤会のアパートをよく取り上げて書かれている。同潤会とは関東大震災後の被害者のために震災復興住宅の供給を主な目的として、アパートメント事業、不良住宅地区改良事業などの各種事業を東京・横浜を中心に行った財団法人である。コミュニティー造りを目指し、アパート内や普通住宅団地内に共同浴場やテニスコート、児童遊園など各種の社会施設を設置した。また、仕事の紹介をする授産事業も行われて、入居者の生活を支えた。このように同潤会は住宅建設をしただけではなく、社会政策的な活動も行った。
また、一つの喫茶店や料亭を取り上げても、そこでは、毎日誰かが誰かといろんな話をしていて、そしてもしかしたらそこで歴史を動かす会話もあったりするのかもしれない。
このように街の中で一見何もなさそうで素通りしてしまいそうな場所でも、その全てにドラマがあると思うと、街歩きの仕方も変わってくるような気がした。
散歩がたんなる空間の移動だけではなく、時代や時間の移動、物事への移動、心象風景への移動であるということを感じた。
近代的な都市計画はまっすぐ延びた道を好む。それに対し、曲がりくねった小道は不便でややこしいが、次はどんな街並みが現れるんだろうという期待を膨らませる効果があって、そこにこそ散歩で新しい発見があるのだ。
ふらりと散歩するのもいいが、その街の潜在的な歴史の背景などを理解して、確認しながら歩くのもまた新しいと思う。
R.K