京成線で何十回越したか分からない荒川。ほんの80年前に開削された人工河川だったことを恥ずかしながら知らなかった。金八先生の舞台でおなじみの東武堀切駅について思っていた「堀切は対岸なのに、なぜここに?」という疑問が本書でようやく解けた。元々、東武堀切駅は放水路の真ん中にあったのを、無理矢理堤防沿いに押し込んだのでいびつな直線になったんだとか。全長22キロ、両幅500メートルの大工事。村がいくつも廃村になり、学校や名刹が引っ越ししと大変だった。江戸開府以来、先人の大変な努力で0メートル地帯の治水は営々と進められてきた訳だ。
そして、こちらも何百回通ったか分からない井の頭通り。やたらと一直線で、いつも曲がった交差点に浄水場があるのはなぜか。そして、茗荷谷の近くに桜の名所になっている播磨坂という道路があるのだが、全長500メートルくらいなのに、道幅が環八並みに太い。これも何なんだと。どちらも本書に種明かしがあった。ほかにも「軍都」東京の痕跡もかなり書かれていて、戦時中に爆弾で決壊されないようにと、村山貯水池を荒地の地図記号にして、丸太を浮かべ偽装していたというのは、当人たちは真面目だったんだろうが「そんなんで隠せるか」と笑ってしまう。
古地図本というと江戸と今を対照しているようなイメージがあったが、江戸だと、近代的な測量ではないから、地図を対照しても「そうだったのかなあ」位にしか思わない。でも本書は、遊郭や競馬場、鉄道の廃線など、現地を見ても痕跡すら全くないものを、ほぼ同縮尺で描かれた過去と現在の地図を重ね合わせ、過去、存在したことを確かに示す証拠を浮き出すのに驚く。全ページカラーというのも、土地を知る上でとても良かった。東京史か地図に関心があれば楽しめるはず。