古代エジプト人にとって、墓内部に描いた壁画・文字(ヒエログリフ)は、墓主の死後の世界における生活になくてはならないものと考えられていました。たとえば、壁画として描かれた食料は、死後の世界での現実の食料となり、文字は死後の世界を正しく進む手引きとなると信じられていたのです。つまり、墓内部の壁画や文字は、死後も 「永遠」 に現世と同じ生活を送るために必要なものでした。
本書は、壁画のカラー写真をふんだんに使い、そこに描かれた絵に託された古代エジプト人の思想・願いを解説しています。現代の私たちが数千年前に描かれた壁画やヒエログリフを見て感動するのは、彩色の美しさなどはもとより、古代エジプト人がそこに込めた 「永遠」 への強い想いを受け止めているせいかもしれませんね。
年々、撮影はおろか、一般人には立ち入ることさえ困難になってきているエジプトの墓群。値段 対 資料的価値 という点でもお買い得の一冊です。
また、巻末に 屋形 禎亮 氏 による 『古代エジプト人と墓壁画』 と題した壁画論がありますが、これが逸品。重要な点をコンパクト、かつ不足なく書いてあり、著者には失礼ですが、壁画写真とこの小論だけでも 「買い」 の一冊です。
ただ、壁画や文字の写真について、「何々某の墓」 という出所と年代・簡単な解説が付記されていますが、「何々某」 についての詳しい歴史への言及や解説はありません。
古代エジプト初心者の方は、もう一冊、古代エジプト通史の本を傍らに、併読されることをおすすめします。