楽器研究家で東京藝大講師の佐伯茂樹氏による、オーケストラの楽器図解です。
他の「楽器の本」と違う点は
・カタログの綺麗な画像を敢えて使わず、現役の奏者のものや、博物館に所蔵のものなど、実際に演奏に使われてきた楽器の画像を採用。「音楽を奏でる道具」として伝わってきます。
・各楽器を楽器ごとに分けてまんべんなく解説するのではなく、材料の原産地や種類、文化や合奏の形態、担っている役割、時代、構造、果ては宗教や組織といった様々な観点から、解説を試みています。
といったところです。
さらに重要なことですが、この本には、「であるはずだ」「とも考えられる」「分類は難しい」「かもしれない」など、解説書らしからぬ表現が多く見られます。何気ない言葉ですが、「自分にはわからない」ことを、「わからない」と潔く認めて、そこから「なんとかしてわかろう」「どう考えたらよいのだろう」と、もがいていなければ、決してできない表現です。私はそこに、作者の、楽器、そして音楽の研究に対する、誠実で、徹底した姿を感じます。解説書という体裁ばかりを整えて、根拠のはっきりしないことや、研究がまだ不十分なことまでも、まことしやかに真実であるかのように書かれている「楽器の本」(そしてそれを読みかじった者が振りまく無責任な言説)が世に溢れている中、佐伯氏の姿勢は、「学術研究は如何にあるべきか」という根本の問題を考えさせてくれます。
また、楽器経験者は、まず自分の楽器がどう書かれているかを期待すると思いますが、「自分の楽器が良く書かれていれば、良い本」というような見方をしていては、この本の奥深いところにある楽しみを感じることはできないと思います。あえて1ページ目からゆっくり読んで、歴史の楽しみ、そして音楽の楽しみを感じ取って欲しいと思いました。
追記:フレンチテューバやダブルベルユーフォニアムなどのカラー画像も掲載されていて、大変貴重です。