カラヤンとフルトヴェングラーとの確執の物語。事実関係は、おおむね合っていると思われるが、プロローグの4行目には早くも誤りがあるし、その後もときどき気になる誤謬がある。それはまあ誤差の範囲内としよう。
しかし、内容は偏見に満ちていると言わざるを得ない。人物把握は実に単純で、権力志向のカラヤン、優柔不断でナイーヴなフルトヴェングラー、狂言回しのような奇人チェリビダッケは、自身の役柄に応じた思考・行動をとり続けることになっている。そして著者の評価は、カラヤンに厳しく、フルトヴェングラーに甘い。典型的な日本人クラシックマニアの思考形態から一歩も出ていないと思われる。また、登場人物の気持ちを勝手に忖度して自身の解釈を補強するような記述方法は、著者自身がエピローグで断っているものの、本書のあるべき性格になじまない。
立て続けに重量級の評伝を読んできた目からは、些かお粗末な筋書きの芝居のようにみえる。わかりやすい文章なので読みやすいが、文体はぶつ切りの蕎麦のようで、味わいはない。素人マニアの労作、といったところだろうか。