ああ読み終わってしまった!
という寂しさが、読了の満足感を凌ぐ傑作。
異例のベストセラーということで、新聞各紙でも採り上げられたが、
饒舌なドストエフスキーの魅力を、テンポよく、その結果(おそらく)巧みに
引き出した名訳の文体と、本書を含む全5冊の巻立ての構成のうまさが
光文社判「カラマーゾフ」の魅力のすべてである。
そして、特にこの別巻について言えば、小説の「エピローグ」部分は、
総ページの5分の1以下だが、1〜4各巻に付されてきた、
すこぶる工夫を凝らした解題の総決算もいうべき長文の解題と、
「カラマーゾフ」創造との結びつきを意識した刺激的なドストエフスキー略伝が
掲載されており、小説読後の余韻を高めてくれる。
学生時代、『罪と罰』を読んだあと、同じ新潮文庫で挑戦したものの挫折。
遥かな時間を隔てて向き合った本書の、なんと面白いこと。
登場する人物像、事件の、あまりにも現代に通じる点も驚異だが、
小説とは主題以上に、語り口が持ち味なんだということを、
改めて思い知らされた次第。
それにしても、本書は書かれるはずだった全体の「第一」の部分だという。
いったいどんな展開が、この後にあったのでしょうか!
他のレビューの方で、
「サイドストーリーとも言えるアリョーシャと子供たちとのエピソード」
に惹かれる趣旨のコメントがありました。
それも納得ですが、本書の訳者の「解題」を読めば、それもまた、
書かれなかった“第二の小説”の伏線だったようです。
そんな謎というか、「未完」であることも含めて、本書は偉大な作品。