世界で最も頻繁に口にされるロシア人の名前――それはレーニンでもスターリンでもなく、
カラシニコフかもしれない。
一兵卒上がりの設計屋・カラシニコフが、自動小銃「AK47」一丁で国民的英雄になる。
しかしAKは、勝手に一人歩きを始めてしまう。
1960年代後半、世界各地で「革命」「反植民地主義」「反帝国主義」の声が第三世界の人々の心を熱くさせた。
当時の英雄たちの手には、必ずといっていいほどAK47が握られていた。
いわばカラシニコフは、反資本主義、反帝国主義の象徴でもあったのだ。
象徴だけでなく、実際たとえばベトナム戦争では、カラシニコフがなかったらどうなっていたか。
アメリカが勝利を収めていた可能性すらある。
今その銃は、ビンラディンの手にも握られている。だがカラシニコフはその姿に憤りを覚えながらも、
「彼は、最も優れた銃を選んだという意味で正しい選択をした」と言う。
全編に流れるのは、旧ソ連時代への旧懐だ。とくにスターリン時代。
それは、「現在のロシアは堕落している」といった、聞きようによっては老人の(カラシニコフ氏は83歳である)愚痴のようなものも語られる。
だがなぜかそれらは嫌味ではない。
ただ、結局のところカラシニコフは旧ソ連時代の「英雄」であり、
今も裕福な暮らしをしている。本書はそこからの発信であることを、まず考えるべきだろう。
ロシア、ソ連の「暗部」について鋭く切り込まれた本ではない。
だが、数奇な運命を背負った一人の男の人生が明らかにされたという点では一読の価値はある。
余談だが、「トカレフ」も人名である。こちらは短銃だが、彼の人生も知ってみたくなる。
また松本仁一著「カラシニコフ」も、ぜひ読んでみることとお勧めしたい。