カラオケには、1人の手で生み出された物ではなく、いくつもの無欲のブレークスルーが重なりあって、大きな産業になったことが本書を読み分かった。冒頭で「カラオケの発明者」を一人に限って取り上げていた、これまでの「カラオケ史観」をブルドーザーのように潰した後、これまで不運にも取り上げられてこなかった人たちも含め「カラオケの父たち」の半生を次々と紹介していく。最後にカラオケ用楽曲の制作現場を紹介するが、てっきり、機械で自動的に生成される、または原盤を持つ会社から提供されていると思っていたので、5日はかかるというその手作りぶり、ストイックな職人さに驚いた。
本書が取り上げた3人のブレークスルーの物語は非常に読みでがある。どれも明るく楽しい人物ばかり、エピソードもとても面白い。特に「カラオケうどん屋」から「カラオケボックス」の発想へ結びついた経緯というのがバカバカしくていい。「カラオケボックス」の考案者のおっさんのコメントなど本人が前にいるかのようなニュアンスまで汲み取れていて、臨場感を引き立てるせりふ回しはどれも練りに練られている。また、些末なようだがあいまいだと興ざめしがちな過去の統計、価格などの数字も丁寧に記述されていて、取材が緻密なことを感じさせる。また、リードの文章もいかに「カラオケ産業」が巨大か、数字を有効に使い、読者の興味を巧みに引き寄せている。また、テンポ良く短文を積み上げ、なめらかに物語を展開する文章も読みやすく、素晴らしい素材を生かした著者の力量も確かだ。