本当に初心者向けの水ガメ飼育本というのはあるようでないジャンルである.実際,初心者向けを謳っている本はあるが,初心者向けというより子供向けというタイプや,マニアでも買ってくれるようにか,単価を上げるためだか知らないが,中級者,上級者向けの内容を盛り込みすぎて実際には初心者向けとはいえないような本が大半である.また,版を大きくしてカラー写真をたくさん使えばいいんだと勘違いした本や,そっちのほうがたくさん売れると思うのか,爬虫両生類全体あるいは小動物まで含めた総合飼育書としてやたら1種類あたりの扱いが軽いもの等々・・・.
1000円という値段だが,真に水ガメ飼育(一部の陸棲ヌマガメ科,イシガメ科も含む)に焦点を絞った内容が書かれており,内容は充分以上であり,初心者にはお勧めである.初心者からがめの飼育に聞かれて忙しいとかの理由で答えられないマニアな飼育者にも,そういう場合はこの本を読めばいいと奨めるために1冊もっておいて損のない本である.また,生半可な知識がしかないけどマニアぶりたい人にも密かにオススメである.著者は有名な高田爬虫類研究所の飼育室の主で,飼育部門の番頭格だった人で,爬虫類飼育に関する経験には定評の有るかたである.そのため,初心者むけとはいえ,マニアが読んでも充分参考になる,あるいはそうだよなとうなずきたくなる記述がたくさんある.実際,書評子の友人でヘビやトカゲには詳しいがカメについては知識のない悪友は最初ぱらぱらと関心なさそうに見ていたが,しばらくすると食い入るように読み出した程である.初心者のカメ飼育からはかけ離れた,珍奇な種,色彩変異個体の写真等も眺めているだけで楽しいと思う.
ミナミイシガメの記述がクサガメと入れ替わっているとかいくつかのミスは見られるし,どうせならバタグールガメ科ではなくイシガメ科という表記にして欲しかったとか,改善点はあると思うが,取りあえず水ガメの飼育本を一冊買うとしたら何がよいかと聞かれたら,取りあえずこの本を奨めておけば間違いないという本である.まさに「初心者にそして初心者に説明している時間のないマニアのあなたに」という本だと思う.