訳が素晴らしい。訳者はカフカの作品を、読んで楽しい「大人のおとぎ話」と考える研究者だが、直訳ではなく、作品の大意に合わせた訳文を心がけたのだろう、本当に読みやすい。中でも『断食芸人』は、同じ岩波文庫の「変身他1編」に収められているものとの違いに驚いた。
だからといって、この作品に収められた短篇が全て理解できるわけではないのが、カフカのカフカたる所以なのだが…。読むたびに解釈が異なってしまう作品もあるし、何度読んでも意味がわからない作品もある。文学的な表現も殆どなく、どちらかといえば事務的と言えそうな簡潔な文章にも拘らず、そうなってしまう。
全30編(中には1ページに満たない作品もある)、イソップ寓話のように擬人化された動物を扱った作品も多い。イソップは誰が読んでも同じ解釈のものが多い(実際最後に寓意が記されている)が、カフカの作品には答えがないばかりか、明確な問いもないものもある。
“難しいのに何故か不思議と面白い”、私にとってカフカとはそういう作家である。
この作品集には、カフカの描いた戯画風の絵が何点か収められている。当たり前なのだろうが、小説にピッタリと合っている不思議な味の絵である。