ワイン好きの人が美酒を味わいながら読む本として、これほどふさわしい書物はないでしょう。日本ファンタジーノベル大賞の選考委員が「ワイン好きによる、ワイン好きのための、ワイン大好きファンタジー」と評しているのは、まさに至言といえます。それくらい、「ワイン愛」が込められた物語です。
遊び心も一杯で、これがフランス人やイタリア人により書かれた本ではなく、日本で誕生したということが驚きです。ぜひ英語やフランス語に翻訳され、ワインの本場に逆上陸してもらいたいものです。
十字軍の行動は日本人にはあまり馴染みがありませんが、この物語は聖地エルサレムに向かう十字軍遠征を縦糸に、主人公ロマネたちのワインの探索行を横糸に織られ、とても重厚な内容に仕上がっています。イスラム教徒に気づかれないよう、ギリシャ人たちの夜明け前の葡萄摘みや地下醸造所のワイン造りなどはとても興味深い場面でした。
一方でオリエントの香りも高くて、スルタン宮での詩の朗読会、砂漠の隊商宿での食事風景、トルコ人村のにぎやかな結婚式など、スパイス香る場面も盛りだくさん。私はベリーダンスを披露する踊り子レツィーナの姿がとても印象に残りました。
本書はロマネやムルソーと一緒に楽しい旅ができる、まさに味わい深い小説です。この物語を読んで、私もコートダジュールやトルコを旅したくなりました。筆者には次はボルドー・ワイン誕生の秘密を解き明かしてほしいです。