三作の短編が収録されているが、その三作が三作とも、主人公が律儀だ。
「カソウスキの行方」のイリエは、好きだと仮定した相手、森川の
健康診断書のコピーや森川から借りたものを、
会社の経費で買った兵馬俑のノートに記録していく。
「Everyday I Write A Book」の野枝は、後輩なおみちゃんに自作の化粧水を
提供してやり、肌質の変化を携帯電話のメモ帳に入力している。
「花婿のハムラビ法典」のハルオは、恋人サトミから受けた不義理を数値化して
手帳にスコアリングしている。
律儀で、概ね善良な社会人が、生きていく上で被る世間との摩擦と、
いかに折り合いをつけるか。それは妥協というのではなくて、
工夫のような気がする。自分のできることをする。
独りよがりな自己犠牲であっても、
傷ついた者から同じように傷ついた物へのささやかな献身であっても、
惚れた弱みとしか言いようのない赦しであっても、
自己と他者のへだたりを踏まえた上での精一杯の関わりがあると思う。
どろどろとした恋愛感情を描いているわけではないから、
希薄な関係性に見えるけれども、なんだか、温かみを感じる。
思いやり、なんて書くと、ほのぼのしすぎだけれども。
「カソウスキの行方」で、イリエが同僚・藤村の息子に語りかけるシーン、
小児喘息の吸引機の思い出について。あそこがしみじみと好きだ。
随所に笑いどころが挟まっているのもいい。
「年金と介護について」の下りは噴いた。
三作ともバランスがとれていて、安心して読めました。