この本の最大のテーマは文化と宗教の違う民族が共に生活をしなければならなくなった場合の双方の葛藤、特にここではイスラム教の社会での宗教の違いからくる愛するが故の葛藤であろう。どこかで双方が歩み寄り、妥協をしなければ愛を貫くことができない人間の寂しさが伝わってくる。
末期の肝臓がんに侵されている母は、実子のアスヤに「自分の遺体は上海の両親の眠っている墓に埋葬してほしい。」と懇願して遺言とした。ウイグル族のアスヤの父を愛してはいても亡くなったあとは自分の故郷で眠りたいということである。母はアスヤの手によって希み通りに荼毘に付され故郷の墓に埋葬された。その数年後に今度は父が急死して、アスヤの祖父母の眠るイスラムの墓地に埋葬された。30年以上愛し合って連れ添った夫婦はこうして死後は別々にそれぞれの故郷、上海とカシュガルで永遠の眠りについた。
私はこの母の気持ちが心から理解できる。そしてこれでよかったと思える。その両方の血を受け継いだアスヤは、自分はウイグル育ちの、生まれながらのイスラム教徒だと認識しており、愛する日本人男性との愛の成就とイスラム教との狭間で悩むことになってしまった。日本人の史樹はそんなことは、思考の外であるから、アスヤの決断を待つ身となった。
史樹とアスヤがカシュガルで過ごす3日間の漫遊はカシュガルの光景が詳しく描きだされていて一緒に廻っているように楽しめる。全体に章の展開も素人離れしていて構成がしっかりしていると感じた。