ジョン・カサヴェテス。米国本国で正当な評価を受けていない映画作家。資金に恵まれず製作中断を余儀なくされたことさえある映画作家。人間のあらゆる感情をフィルムに焼き付けた唯一無二の映画作家。「ダレきって、ただ惰性で生きているだけで、創造することや愛することから身を引いてしまった人間は大嫌いだ」と言い放った男。
この写真集は、1989年に60歳で逝去した米国の映画監督ジョン・カサヴェテスの周辺を、彼の友人のサム・ショウとラリー・ショウが撮影した写真を収めたものです。演技中の俳優達、撮影の合間の打合せや休憩、家族や友人達との休暇、そういった写真が百点余り収められています。
写真は「生きている」人々の表情、身体を鮮やかに捉えており、それらからは人々の感情の動きがフィルムから溢れ出て来るかのようです。そして驚くべきことは、演技中の俳優達と演技をしていない人物達との間に、明確な境界がないことです。俳優達は映画の中でも、個々の生活においてと同様に「生きている」のです。カサヴェテスの映画においては、人物達の感情がその強弱を問わず常に揺れ動いており、そのため、映画のための演技に慣れた観客達が、その激烈さゆえに居心地の悪い思いをしてしまうことさえあります。従って、ここに収められている写真群が、生きている人間の感情の表出という点で共通していることは当然のことかもしれません。
絶版になって久しいこの写真集ですが、手にする機会に恵まれた人々が彼の映画に興味を抱くことを期待してやみません。
ただ残念なことは、彼の作品(DVD)の多くが廃盤となっており、作品中の鮮やかな場面を目にする機会が少なくなる一方であることです。個人的に彼の最高傑作であると思っている『ラヴ・ストリームス』に至っては、DVD化されたことさえありません。この重要な映画作家が忘れ去られることがあってはならないと思います。