作家自身が楽しんで書いているのが伝わってくるような、ある意味で彼のエッセンスがコンパクトにつめこまれた作品。「夏の朝の成層圏」と「マリコ/マリキータ」につながるものを感じた。
オアフ島のダイヤモンド・ヘッド(この地名をハワイイ語でいうと、カイマナヒラだという)近くにある、昔の豪邸に仮住まいする普通の人々の、ささやかだけれど胸に響く思い出を、「今よりずっと若くて、心の底にたまった絶望の量もずっと少なかった」ころ、日本人旅行者である「ぼく」が寡黙にきく、という池澤文学ではおなじみのパターンで、物語はつづられる。
写真もそれはそれは美しく、今度ハワイイを訪ねたら、ワイキキを離れて、ダイヤモンド・ヘッドの麓まで回ってみたい、と思わされた。ハワイイの心広き神に祝福された荘厳な海と優しい潮風を、全身で感じさせてくれる快作。