「カイエ」のLPは聴いていたが当時ビデオがあったことすら知らず、どうしてインストゥルメ
ンタルの曲が多いのか?と不思議に思っていた。今回やっとその映像に触れることが出来て、
あのLPはサウンドトラックであり映像作品の一部に過ぎなかったのだ、と20数年ぶりに納得が
行った。
パリの空気感が伝わる関谷監督のカメラワークと、妙子氏の音楽のコラボレーションは本当に
素晴らしい。ボーカルは効果的に使われるが、「黒のクレール」「輪舞」などでは美しいピア
ノと管弦楽をフィーチャーしたインスト曲がBGMとして映像に叙情感を与えている。
「夏に恋する女たち」のフィルムでは、古びたアパルトマンの上にかかる月や黄昏時に明かり
をともす街灯といった味わい深い「光」をモチーフに取り入れている。
インストゥルメンタルで一番気に入ったのは「ラ・ストラーダ」。大らかな旋律に乗って伝統
美の中に活気あふれるパリの都市風景が映し出されていく。運河にかかる可動橋、公園のベン
チなどの点景が心を和ませる。セーヌ川だろうか、大きな川の畔にたたずむ妙子氏の後姿で曲
は終わる。
「幻惑」ではブルーのモノトーンが印象的だ。疾走する車の車窓に映る夜明け前の空をひたす
ら撮り続けているのだが、曲と映像のマッチングという点ではこのトラックがベストかもしれ
ない。
写真もそうだが、観る者の想像力を刺激するモノクロ(的)作品はカラー作品より印象的だと
再認識させられた。
83年に私の母校の学園祭で歌ってくれた妙子氏はまだ初々しいイメージだったが、当時すでに
「ヨーロッパ3部作」を世に出していた。さらに翌年このようなスケールの大きな作品を手がけ
ていたとは、その稀有な才能にあらためて驚くほかはない。
なお「カイエ」サントラ盤以外のアルバムから収められているのは「幻惑」(SIGNIFIE)「夏
色の服」(Cliche)の2曲である。
心の垢を落としたい時や元気を取り戻したい時など、就寝前のDVDプレーヤーにセットするのに
最適な1枚だと思う。