俺の居場所とは一体どこなのか―。
射るような人々の視線と冷たい雨に打たれながら、あてどもなく“街”を彷徨っていた俺の目に飛び込んできたのがこの本、「カイくんのココロ」だった。ココロの置き場所を探している俺にはおあつらえ向きだったし、なによりカイくんの優しい表情が俺の琴線に触れた。書店員に「ブックカバーをつけるか」と聞かれたが、俺の答えはNO。だって表紙のカイくん、すばらしい表情をしているだろ? 何かでさえぎるなんて勿体無い。そう思った。
本屋からほど近いヴェローチェでアイスカフェモカをオーダーし、喫煙席に座った俺はさっそく本のページをめくり始めた。巻頭のカイくんグラビアに心をくだかれたのはもちろんだが、その後のカイくん出生にまつわるエピソードや、動物プロダクションの起ち上げなどの逸話も興味深く、一気呵成に読んだ。自分のココロの置き所すらわからぬ俺に、動物のココロのことなどわかるはずもないが、ご主人の坂本さんとカイくんの間には確かに「絆」のようなものがあったのではないか。
絆―。
使い勝手の良さから昨今何かともてはやされる言葉だが、やはり「絆」というのは共に痛みを乗り越え、苦しみを分けあって、初めて“それらしきもの”が生じる、そういうものなのではないか? 絆、絆、と口やかましくわめきちらしてできるものじゃあるまい。「カイくんのココロ」を読み終えた俺は、マイルドセブンの煙を中空に漂わせながら、そんなことを再確認していた。
「価値のある時間だったよ、カイくん」
俺は表紙のカイくんを一撫ですると、煙草を灰皿の底に押し付けて店を出た。
雨はもう、止んでいた。