地元のスーパー・マーケットに勤めるジェリー・ランダース(ジョン・デンバー)は、ごくごく平凡な男で、妻(テリー・ガー)と2人の子どもと平穏に暮らしている。そんなある日、彼の元に「神」という署名の入った手紙が届く。タチの悪い冗談だと思ったジェリーは、手紙を捨てるが、なぜか何度も彼の元に舞い戻ってきてしまう。まさかとは思いつつも、彼は「神」が面会に指定したホテルに赴くのだが…。
30年代から夫婦漫才コンビ、バーンズ&アレンとして活躍していたジョージ・バーンズが、81才という高齢で主演を務めたハートウォーミング・コメディの秀作。バーンズのこの「神様」役は好評だったとみえて、続編が2本作られた。歌手ジョン・デンバーの素朴ながら印象深い俳優としての好演も観逃せないところだ。
キリスト教圏の者にとって、神がどれだけ身近な存在かはわからないが、なんらかの形でその存在のことを考えているらしいということは日本人でも感じ取ることは出来る。神の存在、あるいは不在というテーマが、今まで何度となく作品で取り上げられて来たことからでもそれは明かだ。ドライヤーやブレッソン、そしてベルイマンなどの作品が代表格だろう。しかし、風土のせいか、そのどれもが暗く荘重な作風で、繊細で美しい黒白撮影が厳格さを強調していた。
本作が新鮮なのは、神の存在という人類にとっての永遠不滅のデリケートな宗教問題を扱いながらも、ことさら神秘的にも哲学的にも描くことをせず、実に明るく庶民的な存在として描いてみせる点だ。もちろん、撮影も白黒ではなく、アメリカそのもののように、あるいは、晴れ渡った空のようにハイ・キーの明るいものだ。"Girl Next Door"という親しみ易さを表すアメリカらしい言葉があるが、それに倣った言い方をすれば、神も"God Next Door"とでもいうべき親しい存在になってしまうのである!神という存在さえもまでも、はるか高みから、わかり易い自分たちの視点にまで引き下ろしてしまうというのは、まさにアメリカ的=ハリウッド的な明るい楽天性だけがなしうる業だろう。
実際、本作での「神」は、白髪頭にドの強いメガネをかけた老人という姿で登場する。神秘性の微塵も感じさせない、ただの近所の気のいい爺さんにしか見えないのだが―そして、主人公のジェリーも疑っている!―、自分が神だと言い張り、その証拠としてジェリーに神の「御業」を見せて納得させようとする。しかし、その「御業」はというと、『
カール・Th・ドライヤー コレクション 奇跡 (御言葉) [DVD]』(カール・ドライヤー監督)で、死者を生きかえらせたり、『
十戒 50周年記念版 (初回限定生産) [DVD]』(セシル・B・デミル監督)で、火柱を作ったり、紅海を分けたりする、まさに神憑り的な奇跡の数々に比べたら、実に庶民的で素朴なもの。車の中に雨を降らせたり、トランプのカードを取り出したり…と、神にしてはささやかな「御業」を披露するばかりなのである。それを冗談とも本気ともつかない飄然とした風貌のジョージ・バーンズがこなすというのだから、可笑しいったらない。スタンダップ・コメディで培った、絶妙な間とパンチライン(オチのセリフ)が端々で効いている。このバーンズの好演、というよりも存在そのものの味が、この作品を温かく、とぼけた味わいにしていると言っていいだろう。そして、不思議なことに、もしかしたら本当に神が存在するとしたら、彼のような存在かもしれないと思わせる柔和さと寛容さも感じさせる。この天才的なキャスティングが、何よりの「御業」というべきかもしれない。81才という年齢で再び映画界に返り咲いたのは、後にも先にもバーンズしかいない。それは、ジョン・トラボルタが、『
パルプ・フィクション [Blu-ray]』(クエンティン・タランティーノ監督)で成し得たカムバックにも劣ることのない鮮やかなそれだ。
バーンズ演じる「神」と自称する爺さんが本当の神かどうかは結局最後までわからない。いくつかの彼なりの「御業」も手品まがいのトリックということもできるだろう。もしかしたら、自分を神だと思い込んでいる気のふれた爺さんなのかもしれない。本作が素晴らしいのは、最後の最後までそのへんをぼかし、決して強制的に神の存在を信じこませようとする押しつけがましさがないところだ。そういった、マーク・トウェイン的なアメリカ伝統の語りを受け継いだ、カール・ライナーの、まるで落語やホラ話を語るかのような軽い演出(同時に、金儲けに走った現代の胡散臭い宗教家への手厳しい批判も忘れない)が、バーンズのとぼけた好演と相俟って、かえって、「ひょっとしたら、自分の身近なところに神がいて、いつも静かに見守ってくれているのかもしれない」と観る者(無神論者でさえも)に奇妙な説得力を持って訴えかけてくるのである。
本VHSは、89年にワーナー・ホーム・ビデオから発売されたもの。マスターは1インチを使っているようで、VHS時代のものとしては、ごくごく普通の画質。画角も、VHS時代では当たり前だった4:3トリミング版。音声もごく普通。残念ながら、権利処理が長引いて、続編『
オー!ゴッド2 子供はこわい [DVD]』、『
オー!ゴッド3 悪魔はこわい [DVD]』がDVD化された時も、オリジナルは、未DVD化という情けない状況だった。やっと2012年にTSUTAYAオンデマンド限定で、VHS時代の素材(1インチ・マスターのデータではなく、VHSそのもののデータのようだ)を使ったDVD-Rが発売されたが、本作は、北米盤に倣って、きちんとプレス盤で発売されるべき作品であることは言うまでもない。