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この本の特色は、彼が本国の外務大臣、次官に宛てた公信記録を多く読み込んでいることである。これをベースに他の資料を参照しながら、オールコックに「代わって」回顧録を執筆したような感じに仕上がっている。従って、自伝を読むようで、面白いが、全くの自伝でもなく、彼を突き放して見ているところもある。これまでこうした本はあまり無かったと思われるが、考えてみると、例えば日本の明治の政治家などについては、その残した日記などをベースに同じような試みが多くなされている。結局、英語の原史料を読めるチャンス・能力のある人が、今までこういう分野に興味を持たなかったということかも知れない。
色々な読み方の出来る本である。発展途上国政府と交渉するというのは今でもこんな気持ちになるのかなあ、と実感できる部分もあるし、出先が本国、本社を動かすときは疲れるなあと共感する部分もある。また、こういう外交官が多くいたから、大英帝国が世界をリードできたんだろうなあと、現在の日本に引き比べて考えさせられる部分もある。
特に日本側の対応に何度も煮え湯を飲まされながら、ロンドン万国博での日本紹介に心を注ぐオールコックの姿に心を打たれる。またロンドン万国博への道中をともにした日本人官僚との交流などの微笑ましいエピソードに満ちている。著者の脇役に対する配慮も主人公オールコック譲りである。
現在の我々の視点は、幕末の日本人より、オールコックの視点に近いのかもしれない。読者は、かつての日本文化に郷愁を抱く。外交官としての使命と日本文化への愛情の間で、バランスを取りながら、自らの使命を全うしたオールコックの人物像。本書のキイワードともなっている「旅」という言葉にからめて、著者は、オールコックの引用した詩で、この書を閉じている。
「注意なさい、旅のお方! 何か見るに価するものを心に留めて、出かけたときより賢くなって戻らなくては、どんな旅をしたって、鹿の角笛をあげるわけには行かないよ」
もしオールコックが本書を読むことができたら、大きな素敵な角笛を貰えるに違いない。歴史好きの人、国際交流に興味を持つ人、旅が好きな人、ほとんど全ての人に薦められる好著である。日本発と国際機関発の二つのペクトルが交差するところに自分の使命があると語る著者の今後の活躍が大変楽しみである。
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