ジョン・カサヴェテス映画って、いつも剃刀の刃の様な切れ味の鋭さと硬質なドキュメント感覚、そして純文学的な深遠さを感じる。後期の代表作と評価されている今作もそうだ。
主人公は著名な舞台女優。新作での役柄を演じるに当たっての苦悩、次第に老いていく事への怖れ慄き、人間的な関係も感情も愛もセックスも感じない孤独な心の隙間に、ある事件を契機に入り込む幻影。
舞台の袖を境目にしてのあちらとこちら。スター女優の虚と実、光と影、激しさと脆さ。彼女の内在する混沌とした意識そのままに全編を支配する正気と狂気が紙一重の葛藤。バックステージ物の中でも、これほどアーティストの内面を痛切かつ濃密に描いた映画は記憶にない。ウディ・アレンが今作を激賞し、ジーナ・ローランズを主演に迎え、「私の中のもうひとりの私」としてリメイクしたのは有名。
それにしても、その飲みっぷりと吸いっぷりも含め、ローランズの鳥肌ものの凄さはどうだ!華やかなスポットライトを浴びる女優の顔から一転、素に戻る彼女の表情を捉えたクローズアップ、痺れます。カサヴェテスとの人生の伴侶、同志として、本当にこのコンビによる映画たちは、メジャーの商業映画として撮った「グロリア」以外は、単細胞な私には難しい部分もあるが、どれもが眼を瞠らされる。
今回、今作を始め、カサヴェテスの代表作5本がHDリマスターにて廉価化、再リリースされる。アメリカ映画にも、こんなに深みがある映画がある事を再認識出来る。