クライシスノベルを得意とする著者が描く、「ネット社会の闇」です。
ある日気がつくと自分の個人情報がネットに氾濫していたら・・・。
悪意のある何者かに個人情報を入手されていたとしたらどれだけ怖いでしょうか。我々が日々接するネットには、我々の分身とも呼ぶべき情報が溢れています。これらを悪意を持って収集し繋ぎ合わせることができたら、それはもう単なる情報というより、その個人そのものになってしまう可能性があります。メール、ネット閲覧利益、クレジットカードの使用履歴、IC乗車カードの履歴、Twitterでのつぶやき、foursquareのチェックイン、mixiでのおしゃべり、などなど、これらを集合しデータマイニングすることで、情報は「私」になります。
「メール、インターネットの閲覧履歴、クレジット・カードの利用履歴、ネットショッピングの登録内容、ICカード(中略)ひとつひとつ別々に見ると、それほどたいした情報ではないように見えても、全て集まると怖いくらい「矢島議員の全て」になっちゃいますね。」
自殺した国会議員矢島を追っていた主人公の検事が知った驚愕の事実。それは、矢島の個人情報がネットの氾濫していたこと、そしてそれが悪意によって再構成されていたこと。情報を収集しているのは誰か、何のために。謎を追う検事にも悪魔の手が忍び寄る。
ちなみに、オーディンとは、北欧神話の最高神で、肩に二匹の鴉が止まっていて、世界中を飛び回って情報を集めてくるので、オーディンは全ての情報を得ることができると言われています。
テーマとしては実に面白いのですが、ミステリーとしての体裁がもう一つなのが残念です。伏線は余分なものが入っていて、わざと混乱させようという意図が見えますし、結果的に犯人も動機もいまいち釈然としません。サスペンス系の方がこの著者には合うように感じます。
過ぎた好奇心、心の底からじわりとにじみ出す、ささやかな悪意。それが、誰かを「オーディンの鴉」にしてしまう。
ここが到達点であり、ここに結論を持ってくるべきだと思うのですが、残念ながら随分手前で終わってしまいます。もったいないですね。