ぼくはずっと、安い日本酒よりは安いワインの方がずっとましだと思っていた。だから、安いお酒を買う限りにおいては、日本酒は勝ち目がない、ということだ。ワインはぶどうだけから造られるから、最低限でも純米酒しかないことと同じではないか、と。でも、実態はそうではないらしい。
ワインはそもそもは農民の酒だった。だが、品質を安定させるために、畑に化学肥料を与え、農薬をまき、人工酵母を加えて発酵させる。そうしてできた均質なワインには個性がないので、つけ香をする。さらに、発酵を止めるために亜硫酸塩を過剰に加え、温度変化に耐えるような薬品や色がよく出る薬品を加えていく。そしてその反動から、オーガニック・ワインが見直されるようになる。そして、個性を持ったおいしいワインもしだいに登場するようになる。
ということで、本書はある意味、既存のワインへの評価に異議を唱えた本だという。ソムリエは無用な資格だし、和食にはコニャックにされるような酸味の強いワインが合うという。ボルドーやブルゴーニュのワインがいいわけじゃなく、その土地ごとに味わいをもったワインがある。名前が知られたワインがおいしいわけではなく、そもそも保存状態や熟成によって味が違うものなので、一期一会のはずだ、という。確かに利き酒師はそれ以上に無用な資格だし、日本酒もまた一期一会だと思っている。結局のところ、おいしいワインはちょっとした利き酒程度でわかるものではなく、じっくり付き合ってみないとわからないし、そうやってワインの良さを覚えていく。そういうものなのだ。しかも、価格帯も極端に高いというほどではない。
本書はワインの本であると同時に、農業の本でもある。オーガニック農業は手間がかかるし、コストも高くなるが、そうであるからこそ、人手が必要になるし、マス・マーケットに乗らない分だけ生産者と消費者のつながりも強くなる。そうした方向に、先進国の農業の、というか農業そのものの未来がある、という。
実は著者を取材したことがあるのだけれど、ちょっと面白いことを言っていた。ディストリビューター(販売委託者)にはワインではなく日本酒の専門家にお願いしているという。ワインの生産農家と付き合うということは、日本酒の蔵元と付き合うことに似ているし、知識よりも自分の味覚に頼るという点でも優れているからだという。自身、けっこう日本酒も好きとのこと。ワインにあてはまることは、日本酒にもあてはまる、そういう意味では、日本酒ファンにもおすすめの本なのだ。