1975年にリリースされた、ブリティッシュ・ポップ史上に
残る名盤が廉価再発です。このシリーズは11月9日にユニバーサル・
ミュージック・ジャパンさんから再発されるアイテムの
一つですが、やはりお求め易い価格で数々の名盤が再発
されることで、新しいリスナーを獲得するということは
とても好ましいことだと思います。発売する企業にとっては
安易なプロジェクトになってしまったり、新しい音を求める
というリスナーの姿勢が弱まるなどという批判もありますが、
やはり名盤と呼ばれるアルバムが高く評価されるのは、
それぞれのアルバムがなんらかの素晴らしいもの持って
いるからだと思いますので、特に若いリスナーにはそういう
名盤に触れていただきたいと思いますし、そういうアイテムが
安価で手に入るというのは素晴らしいと思います。私が
高校生のときにこのアルバムを3000円以上だして買ったのを
思い出します。
話しを10ccの『オリジナル・サウンドトラック』に
戻しましょう。まず、なんといっても『I'm Not in Love』
でしょう。イギリスのポップ・ソングの歴代トップ10には、
ほぼ間違いなくランクインする、まさに歴史的名曲!私はこの
“ポツポツ”となるリズムの音が大好きなんです。この音に
関しては全く時代を感じさせず、いつ録音された音なのか
全く判別不能な不思議な魅力があります。後ろで流れている
SEもいい雰囲気を作り出しています。よくいわれることですが、
10ccというグループは、グレアム・グールドマンとエリック・
スチュワートというポップ職人と、ロル・クレームとケヴィン・
ゴドレイというサウンド・クリエイターという2組に大きく
分けることが出来ますが、この曲ではグールドマンとスチュワートが
素晴らしいメロディを提供し、クレームとゴドレイがそれに
様々な効果を付け足すことで、世紀の名曲になったと言える
でしょう。実際に曲を聴いていると、この曲がとてもシンプルな
構造を持っていることに気付かれるのではないでしょうか。
本来ならアコースティック・ギターの引き語りで演奏される
ような曲です。中盤に入ってくる呟きや、ヴォーカルが始まる
直前まで徐々に音圧をあげるSEなどは本当に曲に新たな表情、
深みをもたらしています。この曲は絶対に聴いていただきたい、
そう強く思う必殺ナンバーです。
順番が変わってしまいましたが、1曲目の『Une Nuit a Paris,
One Night in Paris, Pt. 1. The Same Night in Paris, Pt. 2』は、
このアルバムが仮想の映画のサウンドトラックとして作られた、
というコンセプトを思い出させる内容です。イントロでの車の
クラクション、人の話し声、そして瓶の転がる音などは映像を
喚起します。9分近い大作ですが、そのなかで映画の場面が
変わるように曲調も変わっていきます。随所に巧みにコーラスが
配されていたり、次々と趣向を凝らしたメロディが登場したり、
ピアノなど楽器もバリエーションに富んでいて、10ccの音楽
素養の高さを感じます。壮大なスケールを持ち、アルバムの
コンセプトを最も体現しているこの曲を頭に置くことで、一気に
リスナーを自分たちの世界に引き込むことに成功しています。
『Blackmail』は10ccが得意とする捻ったメロディが特徴の
曲です。ギターのトーンがいかにも10ccらしく、曲の完成度を
高めるためというよりも、曲に面白みをもたらすアイデアとして
ギターが使われているという印象を受けます。とは言っても中盤と
後半のギター・ソロはスリリングでかっこいいです。
『The Second Sitting for the Last Super』も10ccらしい
遊び心に溢れたナンバーです。この辺りはアルバムのコンセプトに
沿いながらも、10cc本来のポップ・ソングになっています。
そして、10cc本来のポップ・ソングとは、前述したように、
グールドマンとスチュワートによる素晴らしいメロディが
ベースにあり、それにゴドレイとクレームが様々な仕掛けを
加えることで、高い質のメロディを持ちながら、どんどん冒険に
挑んでいくという音楽ファンにはたまらないものです。この曲でも、
テンポの速いロックから、明るいポップ・ナンバーになり、艶やかな
コーラスが印象的な曲になりと忙しいことこの上ないです。
『Brand New Day』はピアノが中心となった雰囲気のある曲です。
このアルバムでも何度も登場するオペラ調の曲で、いかにも
サウンドトラックといった感じがします。
そして、最後を飾る『The Film of My Love』は映画のエンドロールで
流れそうな、どこまでも青い空が続いていくようなイメージの
ナンバーです。南国を思わせるリズムとギターが、映画を見終わった
ときのような満ち足りた気分にしてくれます。
この『オリジナル・サウンドトラック』は1975年に発表された
のですが、10ccはそれぞれの作品に特徴があって分かり易いです。
デビュー作である『シート・ミュージック』はまだそれほどギミックが
使われていない、ウィットとアイロニーに溢れた作品、この
『オリジナル・サウンドトラック』はどちらかといえば、
メロディ組が前に出た作品、そして続く『びっくり電話』は
サウンドクリエーター組が主導権を握ったであろう楽しい仕掛け
満載のポップ・アルバム。そして、サウンドクリエーター組が
脱退し、ブリティッシュ・ポップへのオマージュともいえる
メロディが詰め込まれた『愛ゆえに』。こう見るとメロディ組と、
サウンドクリエーター組が交互に主導権を握っていたのか?
という気もしてきます。
この『オリジナル・サウンドトラック』は、アイデアありきの
つまらないコンセプト・アルバムとは一線を画するまさに歴史的
名盤と呼べるものです。最近ではこんなアルバムは滅多に接する
ことが出来ないので、若いリスナーの方もこの機会に聴いて
いただければと思います。
Reviewed by ちょっと寄り道 [音楽の旅] http://sensun.blog83.fc2.com/