私は、クリスティー物には何にでも食い付くコアなクリスティー・ファンを自認しているので、そういう意味では、この作品には不満はないのだが、内容的には、言いたいことが幾つもある。
まず、このアメリカ製テレビ・ドラマは、ポワロ物の現代化をうたい文句にしているのだが、ポワロやマープルのような特別なキャラは、古き良き時代の情景描写と一体となってファンに愛されているのであって、そんなポワロがパソコンをいじるシーンなどを見せられると、どうしても、違和感が先に立ってしまうのだ。クリスティー物の現代化を、必ずしも、否定する気はないのだが、それは、「忘られぬ死」のような、ノン・ポワロ、ノン・マープル物の世界だけに留め置いてほしい。
ポワロ役のアルフレッド・モリナも、完全なミス・キャストだろう。彼が演じるポワロには、全く愛嬌や面白味がなく、古くは、アルバート・フィニーやピーター・ユスティノフ、新しくは、現在進行形のデビッド・スーシェらが演じるところの、それぞれの個性溢れる愛すべきポワロ像が、全く伝わってこないのだ。たしかに、歴代のポワロ役が、パソコンを扱う姿など、想像もできないのは事実であり、現代的な設定に見合ったポワロ役を選んだ結果が彼なのだとしたら、やはり、そうした設定自体に無理があったということだろう。
あの有名な事件現場のロケ地の安直な選択にも、首を傾げざるをえない。「そこいらの近場でのロケで、安上がりに仕上げました」といった裏事情が見え見えの事件現場は、映画版の原作に忠実な荒涼とした大雪原と比べると、あまりにも貧弱で、オリエント急行沿線の風情は全くなく、見ていて興醒めするほどなのだ。どこで撮影するにしても、いかにもそれらしい雰囲気を出すくらいの配慮はしてほしいものだ。
一般のミステリ・ファンには、EMI製作の、豪華で充実した内容の、映画版「オリエント急行殺人事件」の方をお勧めしたい。