日本ではほとんど知名度がなく、またこの国のみに絞って書かれた日本語の本など数えるくらいしかない国、オマーン。アラビア半島の南東部にある小さなこの国でJICA専門家として働いていた筆者は、その他の様々な活動も合わせ、日本とオマーンとの関係、オマーンの開発への貢献が評価されて、2007年に日本人として初めて「勲一等カブース国王陛下文化・科学・芸術勲章」を受賞した人物である。
タイトルには見聞録と銘打ってあるが、本書の内容の中心となるのは副題にもある日本オマーンの交流史である。オマーンを訪問した日本人や、日本を訪問したオマーンの要人一人ひとりの動きなど、人物、貿易、文化についてそれぞれ、史料を用いて丁寧に追っている。例えば、現オマーン国王の祖父が国王を退位後に日本へ来て日本人女性と結婚し、神戸に住んでいたことがあるという話を皆さんは知っているだろうか。私は小耳に挟んだことがある程度だったのだが、この機会にその話の経緯やその後を知ることができ、興味深かった。
難点をあげるならば、内容は精緻で参考文献も充実しているにも関わらず、見聞録という本書の性格上、筆者の体験談や感想なども含まれているため、学術的な資料として扱うことができないところにある。これだけ知見のある筆者ならば、体験記と学術的な著書の2冊に分けて出版してほしいくらいで、その点が悔やまれる。また、オマーンの好意的な面に焦点が当てられているため、否定的な面についての言及はあまりされていない。
とはいえ、オマーンという国が筆者の言うように、素晴らしい国であるということには私も同意する。これまで10カ国近く中東の国々を巡ったが、私もオマーンが一番好きな国だからだ。筆者が望むように、本書を読んでオマーンを好きになってくれる人が増えることを期待したい。そんな温かみのある一冊だった。