ミュージカルや映画で有名な本タイトルですが、まず原作から読んでみました。
ガストン・ルルー1910年の作品ということですが、
オペラ座を舞台にしたロマンや幻想の香りを味わえたとしても
現代的な意味での恋愛小説やホラー小説から得られる感動は得がたい、というのが率直な感想です。
そして構成の冗長性と筋立ての整合性の無さが読み進める際の障壁となり、
少なくとも2度、最後まで通読しなければ怪人の謎をめぐる伏線が充分には理解しがたいです。
にもかかわらず何度も読み直したい、もっとオペラ座の怪人の世界にどっぷり浸かりたいと
思ってしまうのがこの作品の魅力でしょうか・・・
この作品の欠点は、怪人の人格や愛に共感が得られないことにあるのではなく
歌姫クリスチーヌ・ダーエの科白がスカンジナビアの田舎娘が幼馴染みのラウル子爵に向けて語られる
あまりにも粗野で不安定な精神状態そのままの言葉遣いで訳出されているため、
女性らしいしなやかな魅力に欠ける点にあると思います。
なぜ怪人の最期の恋愛の対象がクリスチーヌだったのか、という理由がよく分からないままなのです。
ひょっとすると謎の人物として描かれているはずのペルシア人の後半生のほうに
人間的な魅力が感じられるかもしれないのです・・・
また、頗る戯画化して語られる新両支配人の言動、そして作品全体に張られた伏線が、
けっきょくは怪人の愛の崩壊に収瞼されるものと理解しなければ構成の一貫性に繋がらないことも気になります。
この小説を読めばミュージカルや映画でもっとオペラ座の怪人を堪能したいという気持ちになります。
筋を追いつつそこに読者自身の幻想を差し挟んでいき、
自分自身のオペラ座の怪人の世界を創造していくことが、この作品の本当の魅力かもしれません・・・