同工の出版物が多数出現した中で、このCD版だけは、その存在意義や価値を見出すのに非常に難渋している。
というのも、就任演説と勝利演説をともにフルヴァージョンで収録した、というところくらいしか、プラスに評価できそうな部分が見当たらないからだ。
音声の編集にしても、勝利演説の方は11のトラックに分けて収録されているのに対し、就任演説は全体が1トラック処理されている。どのみち全体をきちっと通しで聴くことになるので、トラック分け自体にもあまり意味がないのだが、どうして構成が違うのか、なぜか気になる。
さらに、対訳と謳っているが、日本語の訳文には「意訳」との断りがついている。「内容をより深く理解するため」と“言い訳”しているが、意訳では訳者の感性や判断などが入り込む余地があり、もしそれらの根本部分に誤解があったら、オバマ氏本人の意図するものが正確に伝わらなくなる危惧がある。今のところそうした致命傷には出会っていないが、日本で出す以上は日本語訳の方こそが命であり、その点の不安が拭いきれない。
語注もほとんど最低限度しか付されていない。
生声CD付き [対訳] オバマ演説集にあるような巻末の語彙集もないし、巻頭の評伝も質量ともに圧倒的に貧弱。
出版合戦に後れをとってはならじ、と、とりあえず形だけ繕った印象しか持てないでいるのだ。
そもそも本書のテキスト自体、同社の
オバマ大統領就任演説 DVD Bookと全く同一である。じつはDVD版のテキストには、加えて04年の民主党大会基調演説と08年の指名受諾演説も含まれており、ここから就任演説と勝利演説だけ抜き取ってきた、とも見えるのだ。
その意味でも、同社DVD版を持ってさえいれば、こちらのCD版はほとんど不要、と断言してもよさそうな気がするのだが。