現在の日本にとって最も重要な対外関係が、良くも悪くも日米関係であることを、否定できる日本人はまずいないだろう。だがそれほど緊密な日米関係が64年前、勝者による敗者の占領で始まったことを意識する習慣は、ほとんどなくなっているのではないか。
日本人の対米観は世代による差異が著しいが、本書の著者、松尾文夫氏は1933年生まれ。小2だった42年に東京山手線新大久保駅近くの戸山小学校校庭から、東京初空襲のドーリットル隊長機を見上げたことに、この人の対米関係の原点がある。
長ずるに及んで共同通信特派員として深くアメリカと関わりを持つことになる松尾氏は、「日米両国はまだ本当の和解を遂げていない」との問題意識を抑えることができなかった。日本と同様、第2次大戦の敗戦国となったドイツが、旧敵国・米英仏との間に「ドレスデンの和解」を成立させたのと比べて、日本の戦後処理は未完であり日米間には「すれ違い」の繰り返しが目立つ、と著者は考える。
アメリカが奇跡的に生み出したバラク・オバマというたぐいまれな大統領をヒロシマに招き、鳩山由紀夫首相をハワイの真珠湾に送り出して、互いに献花して戦没者を慰霊する。こうして日米が公式に「戦争の過誤」を謝罪し合うことで、ようやく日米の和解が成り立つ―というのが、著者の提言である。
日本外交の機軸とされる日米関係を、事実上の「対米従属」から脱却させるためにも、日米戦争という原点の「後始末」が不可欠である。船出したばかりの鳩山新政権が松尾提案を真摯に受け止め、日本外交正常化の第一歩を踏み出すことを、有権者の1人として切に望みたい。
松尾氏は共同通信時代最後の数年、企業経営(共同通信マーケッツ社長)に専念した後、現役ジャーナリスト復帰を宣言。ライフワークと決めた「アメリカ」を、先に大著『銃を持つ民主主義』(小学館、2004年)で縦横に解剖した。そのとき十二分に発揮された壮大な構想力と貪欲な取材力が、本書でも見事に再現されている。
山岡 清二(東洋英和女学院大学名誉教授・アメリカ政治)