象徴派にカテゴライズされる画家ルドンというと、奇妙なモノたちが蠢く漆黒に支配された世界を描く初期の作品と、ほぼ混合もなされない彩度の高いたくさんの色が絶妙のバランスをもって配置された花(しかしもちろん実在はしない)などの晩年の作品とでは、どちらを思い浮かべる人が多いだろう。
私はもともと、どちらのルドンも好きだった。
美術書の中には、幼少の頃から孤独感に苛まれていた彼が、40代で結婚し、画家としても軌道に乗って、それなりに幸福な家庭生活を送るようになったために、画風が一大転換を遂げたのだというものもある。
が、本当にそうなのだろうか、事情はそれほど単純なものなのだろうかと、兼ねてから疑問に思っていたのだった。
作品と彼自身の文章とを紹介しつつ編年体で巧みに構成された本書では、「黒の本質」、「芸術家と愛好家(ディレッタント)」、「林檎を描く」等々の中の鋭く核心を衝く言葉から、おぼろげではあるが、上記の変化の機微のようなものを感じ取ることができたかと思う。
すなわち、漆黒の世界と色彩の世界とは、決して相反するものではなく、また彼自身、前者から逃れたかったわけではないのではなかろうか。
そうして、鮮やかな花や神話の世界の裏側に、いわばその翳として、漆黒は常に潜んでいるのでは。
いちばん最後のページに作品「ペガサス」とともに掲げられた、彼の素晴らしい言葉のひとつを、ぜひ記しておきたい。
「判断することは理解することではない。
すべてを理解すること、それはすべてを愛することだ。」