ミスター・ベストセラーことディーン・クーンツの連作シリーズの第一作。
500ページを軽く超す「長編」です。
しかしそこは老練の語り手、相変わらずのリーダビリティで気がつくとスルスルと読み終わってしまいました。
左様に読みやすい作品になってはおりますが、かと言って決して「薄い」お話にはなっていない辺りは、さすがです。
それにしても不思議なお話である。
死者との交流能力を持つ主人公、オッド・トーマスが察知した災厄の予感。
オッド自身、自分がどこへ向かうのか確信を持てぬままに近づく惨劇を防ぐためピコ・ムンドの街を駆け廻るのだが・・・。
これほどボリュームのある長編ですが舞台は南カリフォルニアの小さな街、ピコ・ムンドから一歩も外へ出ることはなく、
クライマックス以外に派手な見せ場も用意されてはおりません。
にもかかわらずきっちりと「読ませる」のだ。
多彩な登場人物に対してきちんとした色づけがなされていて、オッドとの交流を通じてそれぞれが確かな存在感を発揮しております。
それが結果的に主人公の陰影を際立たせており、これまでの作品になかったほどのリアリティと親近感を生むことに成功していると思います。
エルビス・プレスリーの幽霊と一緒にドライブをする主人公の姿にはユーモアを感じずにはいられませんがトラウマに満ちた生い立ちと
苦難に満ちた彼のこれから先を考えると同情せずにはいられません。
読者の共感を呼ぶキャラクターの創造という、簡単そうでとても難しいハードルを越えた本作のシリーズ化は当然という気もしますね。
心霊能力や幽霊も出てまいりますが「ホラー」と言うよりは不思議な運命(宿命?)を背負ったある若者の青春ストーリーとしても読むことができそうです。