この作品の連載が朝日新聞で始まったとき、私にはさっぱりわからなかった。しかし、毎週かなり広い紙面が割かれてあり、いやでも目につく。毎週読んでいるうちに、だんだんとこの世界を理解できるようになったと思う。つまり、これは「どこにもない楽園の物語」なのである。
「天国」とか「極楽」というのは、別に天使があちこち飛び回っていたり、蓮の葉があったりするわけではなく、案外こういう何でもない、毎日が平々凡々と、しかしくっきりと存在感をもって過ぎてゆく世界なのではないか、と思う。そこには、ちょっとした事件や小さな不幸くらいならあるかもしれないけれど、時間はゆったりと流れ、季節が移り変わり、毎日を身の丈で生きてゆける。自然の小さな変化に驚き、それを楽しみ、そこから幸せの糧を得る生活。何かに追われることもなく、日々の生活に不安を感じることもない。何という贅沢であろうか。
週に一度しか味わえなかった楽園の童話がこうして一冊にまとめられた。私にとってこの作品は、平安に満ちた彼岸の風景に他ならない。