『オチケン』の続篇です。大学のマイナーな部の集まった黎明棟を舞台に、今回もゆったりとお話は2本。
三回始末書を書いたら退学、部員が三人を切ったら部は廃部、という規則のなか、今回、部長の岸がガラスを割ったとの濡れ衣を着せられ、三回目の始末書になりかけます。別の部の二人も、それぞれ覚えのない器物損壊などの罪状で、退学瀬戸際に追い詰められます。いったいだれが彼らを陥れたのか? 落語の『三枚起請』を聞かされた主人公越智の頭にはっとひらめくものが……。
あいかわらず、大学生活を講義ではなく部活動にかける若者たちの心意気が解決にもあらわれていて、後味はすがすがしい「日常の謎」です。
もう一篇は『粗忽長屋』がテーマ。岸部長の師匠である花道屋春蔵のライバル、松の家一光師匠とその子息の緑葉をめぐる失踪ミステリで、アリバイ作りはちょっと平凡ですが、入院中の春蔵師匠のために奔走する岸や越智の、やや過激な行動もあいまって、みずみずしい青春物語に仕上がっています。
語尾をふわんとのばしてしゃべる、頼りなさそうなのに、いったん落語を語りはじめると万華鏡のようにみなを引き込む岸、落語の魅力に徐々にめざめてゆく越智、そしてスマートに陰で暗躍する道場師範の中村、三人の個性がますますのびのびと発揮されています。
今回もかっこいい馬術部主将、バードウォッチング部の執念を見せる福部、教授よりも恐ろしい学生部の職員、土屋など、人物描写がキラリと光ります。
女っ気のない男子ばかりの黎明棟での日常が、学同院(学習院?)大学だからでしょうか、どこかおっとりと日だまりの心地よさを感じさせます。日常のミステリであると同時に、著者の自伝的作品でもあり、あちこちリアルな学生生活の描写がなんともいい味です。