本書は四章からなるが、第一章でトルコ系民族を含む遊牧民の西漸の歴史(その中にはフン族やモンゴル族の西征も含む)が語られ、オスマン・トルコはその章の最後数頁でやっと登場する。第二章以降、オスマン帝国の発展とヨーロッパとの関わりが述べられるが、オスマン朝の系図や幾多の地図、絵、そして部分的だがポーランド、ハンガリー王家それにハプスブルク家の系図まで掲載されており、親切にも最後には索引までついていて、文章も平易で読みやすく、文句のつけようがない。オスマン帝国については新書「オスマン帝国 イスラム世界の『柔らかい専制』」という名著があり、本書でもオスマン帝国が何故当時のヨーロッパに対して先進国たりえたかについては同様の指摘がなされている。本書がユニークなのは、オスマン・トルコの通史にとどまらず、バルカン半島を征服してウィーンを2度も包囲するトルコの脅威に対して西ヨーロッパがどのように対応し、何を学びあるいは利用し、そして自らを近代化させて立場を逆転させるようになったかに目を配っている点である。したがって、簡潔ではあるが近代ヨーロッパ成立に至るヨーロッパの歴史(特に、ハプスブルク家とフランスの対立)の概略を学ぶこともできる。上記新書を始め個々のテーマに関してはより掘り下げた本があるが、時間的・空間的にこれだけ広範囲の歴史を扱い、しかも読み応え十分の本は他に思いつかない。ただ、オスマン・トルコが衰退期に入って以降の記述が駆け足になってしまうのが惜しまれる。