オーストリアで2002年に出版された本の和訳です(オシム氏の発言と関係のない箇所は監修者(木村元彦氏)の判断で一部割愛されています)。思慮深いオーストリア・ジャーナリストとのロング・インタビューで、オシム氏が自らの半生、監督の仕事、故郷、リーダーシップ、宗教とテロ、戦争、サッカーと資本主義の関係、スポーツ・ジャーナリズム、ナショナリズム、ポリバレンスなど様々な話題について、自らの言葉で語っている様子が良く伝わります。サッカーの話題にだけとどまらず、サッカーを取り巻く環境(国家、政治、宗教、戦争、ビジネス)の話題がかなりの割合を占めるので、そちらに興味がない読者にはツライかもしれません。しかし、サッカーをプレイするのも、観戦するのも、興行を行うのも、様々な政治的・文化的背景を背負った「人間」なのですから、そのような話題を避けては通れないわけです。個人的には大変興味深い内容ばかりで一晩で読了しました。どの話題を振られてもオシム氏が現実主義的な考えを気取らず真摯に語る様子は正に"down-to-earth"(足がしっかりと地に着いている、素朴な、気取らない、分別(社会常識)のある)、男の美学を感じます。
この本を読むと、オシム氏の考えはブレがないことが良く分かります。「ポリバレント」「水を運ぶ(選手)」など、今では御馴染みの言葉は既にココにあります。「常に問われるのは敗北への心構えだ」(174-175頁)を読むと、2006年W杯前の日本のジャーナリズムの状況(楽観的記事の垂れ流し)への警鐘が既に鳴らされていたのだな、と改めて気付かされます。このオシム氏の「一本筋の通った姿勢」に心惹かれます。
本書で語られるオシム氏の考え方・心構え・哲学は、スポーツだけにとどまらず、サイエンスやビジネスの現場でも応用可能なものがあります。(将棋の羽生氏の著書(「決断力」など)でもそういう楽しみ方があるのと同様です) そういう観点でも楽しめる一冊だと思います。「イビチャ・オシムの真実」よりオシム氏自身の言葉が多い処がオススメです。「オシムの言葉」(木村元彦)と共にどうぞ。