本書はIT立国フィンランドのITクラスター都市、オウル市のITクラスター形成の歴史を、そのベンチャー企業群や公的支援者の活動を通じて描き出したものです。
オウル市はフィンランド北部、市内人口13万人、周辺部も含むと22万人の小都市圏で、商工業が集中する同国南部と比べると経済的に不利な位置にあります。歴史的にはタール産業、続いて木材産業そして皮革産業で栄えた町で、いずれも衰退してしまいます。しかし、1958年のオウル大学、特に同電気工学科の設立によって、人口流出に歯止めをかけ、産業立地へと大きく舵を切ることになります。現在ではノキアなどのIT関連企業が1331社、従業員数は1万数千人以上に達しており、世界に冠たるITクラスターとなっています。
本書の面白いところは、オウルITクラスターを作り上げてきた、大学人、企業家のエピソードを時代順に並べることで、オウルの歴史を編み上げていることです。そして、それらの人物の何と個性的なことか。教授一人から始まったオウル大学電気工学科がオウルにIT技術をもたらし、多くの企業化を集め、ノキアが参入し、市の支援でオウル・テクノポリスが誕生、そして時代の波にのって急成長する。おそらく、危険を冒しても最終的に生活が保障される高福祉国家だからこそ、これだけ多くの個性的な企業家を輩出できたのでしょうが、まさにドラマチックな展開です。
本書は産業政策や、ベンチャー企業に興味のある人には必見の一冊といえます。物語タッチの読みやすい文体なので、ぜひ手にとってほしいと思います。