主人公の産婦人科医が、相当にむちゃくちゃなことをやっていて怖い。
中絶された胎児を培養して、移植用臓器にする。
ホームレスの男をだまして、勝手に受精卵を着床させ、妊娠させる。
パーキンソン病治療のために、産声をあげるまでに成長した胎児を中絶し、利用する。・・・。
最初は不快でしょうがなかったのが、その、徹底した狂医師ぶりに圧倒され、だんだん痛快になってくるから不思議だ。「魅力的な悪役ヒーロー」と言ってもいいんじゃないかと思う。
それに。彼は、私利私欲のために犯罪まがいのことに手を染めているのではない。
不妊に悩む夫婦のため。
適合する臓器を待つレシピエントのため。・・・。
多くの患者にとって、彼は間違いなく恩人であり、感謝し尽してもし足りない存在だ。
彼は「悪」なのか「ヒーロー」なのか。その矛盾が、医学の倫理観の難しさを内包し、ものすごく考えさせられるテーマとなっている。
答えの出そうもない深遠な問題を、やりたい放題の問題医師を主人公にしたことで、うまくサスペンス仕立ての小気味よい小説に仕上げていると思う。