ドイツの作家であるエンデ(故人)は,「個人の価値観から世界像まで,経済活動と結びつかないものはない。問題の根源はお金にある」と提起する。エンデへの取材をもとに,彼の蔵書,貨幣社会の歴史を紹介しながら,現代の金融システムが引き起こす弊害に警鐘を鳴らすのが本書の目的だ。
本書では,事例や寓話を取り上げて,貨幣経済の仕組みと問題点を分かりやすく説明している。たとえば---。
豊かな漁師町に,貨幣経済の導入と一緒に銀行ローンもやってきた。漁師たちはローンで大きな船を買って,効率が高い漁法を採用。そのおかげで,ローンを返すためにたくさん魚をとり,結局最後には魚が1匹もいなくなる---。
貧しくても心豊かに暮らす人々の前に,時間貯蓄銀行から来たという「灰色の男たち」が現れる。男たちは人々から時間を奪おうとする時間泥棒で,「時間を節約して銀行に預ければ,利子が利子を生んで,人生の何十倍もの時間を持てるようになる」と言う。彼らの誘惑にのせられた人々は,余裕のない生活に追い立てられて人生の意味までも失ってしまう---。
こうした身につまされるストーリーは,「将来」を輸入する一方で環境を消費し,地球の資源を食いつぶす現代人に向けた痛烈な批判だ。資本主義経済におけるお金は,より高いリターンが得られる場所に移動し,その結果,利益はごく一部の人に集まり,一方で利益を奪われ続ける多数の人々が存在する結果になったという指摘もうなづける。
お金を銀行に預けると利子が増えるというのが現代の常識だが,本書では面白い事例が紹介されている。世界大恐慌直後のオーストリアのある町では,お金を保有していると1カ月ごとに価値が1%減少するという金融制度を導入し,経済活動を活性化させたという(最後は国家権力が制度を廃止させた)。プラスの利子は短期的な利益に向かい,マイナスの利子は長期的で人間の豊かさをもたらす有意義な投資に向かうというのは,現代社会の中に生きている我々にはなかなか思いつかない発想だ。
お金の病にかかっていると指摘するエンデの予言は,とりわけ日本の経済状態を厳しく批判しているように感じた。本題の解決を先送りして,国と地方を合わせた長期債務残高は先進国の中でも最悪で,GDP(国内総生産)をはるかに上回っている。「人々はお金を変えられないと考えているが,それは違う。お金は変えられる。人間がつくったものだから」という本書の主張に,現代人はいつ目覚めるのだろうか。 (ダイヤモンド社 出版局 編集委員 名久井 範章)
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56 人中、54人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
実体のないものの恐ろしさ,
By 椿龍 - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 (単行本)
一時、橘玲氏の本を皮切りに、株式投資の本を読み漁っていました。平行してヨーロッパの歴史や現在の食品の安全性についての本などを乱読した結果、 妙な曲折を経て、全てのことがぴたっと頭の中で一致し、7年前に出されたこの本を 手にすることになりました。 早速、続編である「エンデの警鐘」も注文しました。 私が今住んでいるフランスでは、ユーロに移行した当時、お金と社会のあり方について EU統合以上に巷でいろんな声がきかれました。 最初は消費社会が何故いけないのか?グローバリゼーションがどうしていけないのか? 能力主義で稼ぐだけ稼いで贅沢することを疑問視する人がどうしているのか?どうして 広告を批判するのか?興味もなければ理解もできませんでした。 今、世の中が凄い勢いで変わり、人々が気がつかないうちに街の古本屋やおいしいお惣菜 屋が国際フランチャイズ店にかわってしまいました。 そうなって、はじめて気がついたのですが、幸せというのは量ではなくて質なのだと。 こう何百年もかけて、あるカラクリに世界がはめ込まれてきたことが、この本からもわかり ます。利子を産むお金というものが、こう限りなく増殖するとどうなるか・・・? これは人類全体の癌のようなものなのだと思いました。 「もっと欲しい、もっと豊かに、もっと大きく、もっと発展・・、 人より得したい、人より金持ちになりたい・・・」これは人類の原罪です。 幸せが何かを勘違いしている、勘違いさせられた、いや無知というのは最大の罪なのですね。 ご存知の通り、イブはりんごを食べてしまったがために、楽園を追放されました。 「お金」と私達が考えているものが実は、このりんごにあたるものだったというのが 私のエンデの遺言についての理解です。 「モモ」をじっくりと読んでみようとおもいます。 意味のある読書となりました。 私のように、これまでこういうことに気がつかなかった人にも広くこの本がよまれるように、 新書かなにかで再版されればいいとも思いました。 ほかの方のレビューにもある通り、第三弾もお願いしたいです。
83 人中、78人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
現代文明を正常にもどすために「腐る貨幣」を考えていたエンデ。,
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レビュー対象商品: エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 (単行本)
この本を、「モモ」とか「果てしのない物語」と同じようなファンタジーと思って買うと、まったく違う本ですから、失望するでしょう。 しかし、エンデは「成長を前提にし、成長を強制する性格をもつ現行の金融システムが、この競争社会を生み出している根本原因だ」と喝破していました。 もともと物物交換からはじまった経済が、貨幣というものを生み出すことによって、 貨幣がいつでも肉や魚の変わりとなったのです。しかし、誤算は、この貨幣というものが腐らないことでした。で、貨幣は貯めておくことができる、利子を受け取ることができる、という様になりました。この特質をいち早く知り、実行したのがユダヤ人でした。 この、成長を強制する(その端的なあらわれが「利子」というものですが)金融システムの行き着く先は、地球が有限であるが故に、環境的滅亡か、経済的滅亡か、あるいはその双方か、どれかしかありません。 米国の財務状況、そして日本の財務状況を見れば、少なくとも両国に財政的破綻が迫っていることが判ると思います。 しかし、「この現在の金融システムはたかだか数百年でできたものだから、その限界や不合理に気がつけば、変えることができる」というのがエンデの思索で、彼は「腐る貨幣」を考えていました。 本書では、NHK出版のスタッフが、エンデの遺言を証明すべく、世界の過去、現在にあった、 腐る貨幣を作った地域・国の腐る貨幣の歴史とメリットを紹介するとともに、 我々が作家として知っているエンデの、あまり知られなかった深い思索の世界へ一歩踏み込んだ内容になっています。
14 人中、14人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
生きる上での必読の書,
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レビュー対象商品: エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」 (単行本)
「自分が奴隷だと気付いた者はもう奴隷ではない」といいますが、自分自身、つい最近まで現在の貨幣制度、銀行、利子というごく当たり前に 存在していたもの(常識)に対して、なんの疑いを持つことも無く、生きてきました。 エンデの底知れない優しさ、そして誰も今のこの仕組みに気付かないやるせなさ、 そういったものが本を通して伝わってきます。 しかし、生まれる前から存在している常識とされているものに、疑いを持つこと、 これは至難の業です。高い教育レベルの人であればあるほど、この「洗脳」に 気付くことは難しいと思います。 「信じる、信じないの問題ではない。算数の問題。必ず今の貨幣制度は破綻する」 涙を流して訴えていた女性学者の姿が印象的でした。 破綻の先にあるのは、どういう世界でしょうか。 【マネーを生み出す怪物】と共に、必読の書です。
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