手塚治虫先生の少女漫画と言えば「リボンの騎士」。あの作品も好きでしたが、個人的には「このエンゼルの丘」はもっと好きです。
心優しい人魚の姫ルーナがある事情で禁を破り、死刑として大きなシャコ貝に入れられ追放されます。やがて行き着いた土地で奴隷にされますが、1人の青年が救います。理由はルーナとそっくりな妹あけみがいたから(下心がなくていい)。というわけでルーナとあけみの入れ替わるのは定番的ですが、面白いです。
一方で、ルーナを追放した悪い女祈祷氏ピョーマがルーナを亡き者にしようと画策。主要人物を苦しめるこの悪女は、しかし母親としては慈愛深く、いろんな側面を持っているものなのだ、と登場人物は丁寧に描かれていて素晴らしい。他にも、ルーナの美しい姉のソレイユ姫、殺し屋、海神ポセイドン、ピョーマの愛息子ピレーネ王子(もっと出して欲しかった)、などなど、大勢の登場人物を無理なくまとめています。 人魚が好きだった、という手塚先生は、人魚についてピョーマにこんな台詞を言わせます。「人魚というものはそもそも伝説の中に古めかしいベールをつけてとじこめておくべきものなのよ」
人魚なんて伝説。でも迷信、とばっさり切り捨ててしまうのも夢が無くつまらない。それを述べた台詞でお気に入りです。ラストはこの台詞を現しているかのよう。ハッピーエンドが好きな方にはモヤモヤ感が残るかも知れませんが、これで良いのでは。
もう五十年も昔の作品ですが、殆ど違和感なく読め、漫画の神様といわれる程の素晴らしい作者が1989年にこの世を去ったことはつくづく惜しいと感じます。