現在の素粒子物理学を支える2つの支柱である一般相対性理論と量子力学を自然な形で統合する「超ひも理論」を、コロンビア大学の数学・物理学の現役教授である著者ブライアント・グリーンが、非専門科にも分かりやすく数式を一切使わずに解き明かしていきます(ただし、アインシュタインの有名なエネルギーと質量の関係式だけは例外です)。非専門科にも分かりやすくと言いましたが、決して気楽に読み流して理解できるわけではなく、十分に理解するためには読者にはそれなりの集中力が要求されます。
本書の最初の3分の1で現代物理の基礎となっている「特殊相対性理論」「一般相対性理論」「量子力学」に関して、身近な例を挙げて説明されています。それはかなり成功していると思います。そして本書の本題である「超ひも理論」に入る前に、いかに一般相対性理論と量子力学が相容れないかと言う事に言及し、20世紀後半に物理学者によって費やされたの数多の努力が紹介されます。本題の「超ひも理論」の解説でも身近な例を挙げて説明しようと苦労していますが、著者の力量をもってしても「相対性理論」の説明ほどには成功していません。やはり10次元や11次元などの高次時空間を直感的に理解することの困難さ、および超高度な数学によって記述される「超ひも理論」を直感的に理解する事の困難さの現れでしょう。それでも、現代の最先端の素粒子物理学理論が立ち向かっている難題がいかなる物か、究極の理論たる理論に求められる物は何か、「超ひも理論」は究極の理論たり得るのか、「超ひも理論」をも超える「M理論」とは何か、等々の疑問に対する著者自身の回答を得る絶好の読み物です。
訳文は直訳調の文章が散見されけっして良くこなれているとは言い難いですが、英語を母国語としない日本人に本書への道を拓いてくれた功績は大です。しかし、訳者に改善を望みたい点がいくつかあります。まず、残念ながら訳者達が素粒子物理学の専門家ではないことによる非適切な訳語がみられます。例えば、通常「カルツァ」と呼ばれている人名が「カルーザ」と表記されていたりします。また、338ページにある「リンゴとミカンをくらべるのと同じことだ」という表現はプロの翻訳家とは思えない拙訳です。他には、31ページの「レゾン・デートル」や268ページの「リフレーン」はしっかりと日本語に訳すか、説明を加えないと意味が不明です。あと、不注意な誤訳が散見されます。表1-2の「質量の四つの力、・・」と「電子の質量に対する・・」は間違いで、それぞれ「自然界の四つの力、・・」と「陽子の質量に対する・・」が正しい訳です。
表紙の帯で「ついに、宇宙のすべてを説明する理論を手に入れた!」と断定していますが、これは明らかに誇大表現であり、本来は「ひも理論は宇宙のすべてを説明する究極理論になりうるか?」のような表現の方が本書の内容を正しく伝えていると思います。