70年代前半、まさに「わが世の春」を謳歌したものの、その栄光と引き換えに自分自身という最も大切なものを失いかけ、何度かの自殺未遂の後、自ら意図的に第一線から身を引くように活動の方向をかえたエルトン。
バーニー・トーピンとのコンビ解消、長年連れ添ったバックバンドの解散、そしてたった一人での再出発を期したアルバム「シングルマン」発表。エルトンはまさに自分自身を見つめなおそうとしていた。
その試みの一つとして、当時まだ厚い鉄のカーテンで閉ざされた共産圏の国、ソ連で、自身とパーカッショニストのレイ・クーパーの2人だけで乗り込み、楽曲とメロディ、そして自身の歌声だけで勝負をかけていく真剣勝負のライブが展開される。Trk4やTrk10といった珍しい選曲も彼の意気込みを感じさせる。
こうした真摯な取り組みがあるからこそ、その後も息の長い活動を続け、良質の作品を発表し、サーの称号を得るまでとなったのだ。
90年代にも1度、この時のことを思い出したかのようにレイと2人だけの陣容で来日した時、私はこのモスクワ・ライブを追体験をしたような不思議な気持ちになった。それほどストイックで、しかし心踊るような奥深い感動の味わえるステージだった。是非、この作品でもそうした感動を味わってほしい。