Eric Bogatinはシグナル・インテグリティ分野で非常に有名なコンサルタントで、近頃は技術セミナを中心に活動している。この本はシグナル・インテグリティの解説書として2004年に出版された"Signal Integrity - Simplified"の第2版(2009年)を翻訳したもの。第2版の原題は"Signal and Power Integrity - Simplified"であり、表題からもわかるように、最近話題のパワー・インテグリティの章が追加されている(Sパラメータの章も追加)。パワー・インテグリティについて書かれた第13章だけでも読む価値があると思う。また、Bogatin氏の独特な視点は、他の本でシグナル・インテグリティを勉強された方にも「目からウロコ」に違いない。
原題のsimplifiedが示すとおり、この本の特長はシグナル・インテグリティ(SI)とパワー・インテグリティ(PI)を非常に解り易く解説している点だ。問題の本質をひとつひとつステップを踏んで解説するので理解しやすい。もうひとつの特長は数式が少ない点だ。もちろん必要な数式は出てくるが、その導出ではなく、数式の意味するところや活用に重点が置かれている。アカデミック志向の方には不満かもしれないが、現場のエンジニアに必要な「視点」をつかみ取ることができる。
PIの話題で印象的だったのは、高速な電流変化はパッケージから出ることができない、という点だ。Bogatin氏はこれをパッケージ・バリヤと呼ぶ。LSI自体が持つキャパシタンスとパッケージのインダクタンスによってLPFが形成されるためだ。このような解説は他所で見た記憶がない。別の例は、ターゲット・インピーダンスを求める式についての解説である。式自体は他所でもよく見るが、式の各項の意味とその限界について解説したのはさすがである。
なお、この本で唯一残念なのは価格である。原著自体が比較的高価なので仕方ないが、1万円を切る価格、できれば8,000円程度にしてもらえると買いやすくなるのではないかと思う。とはいえ、Bogatin氏がUSで開催するセミナは2日間で20万円近くするので、それに比べれば14,000円はバーゲンということになるのかもしれない。日本語でもあるし。しかも、監訳をはじめ訳者の方々はSI分野での超エキスパートばかりであるのも心強い。