私にとって本格ミステリーの代名詞にして神様クイーンが著した犯罪実話集。エラリー・クイーンが2人の従兄弟ユニットなのは有名ですが、本書は片割のマンフレッド・リー氏が単独で雑誌に執筆した物らしいです。クイーンはその昔、国名シリーズという趣向でデビューを飾りました。それは国にまつわる小道具を巡る推理の饗宴でしたが、今回は探偵クイーンが実際に世界を旅して、土地の官憲達から面白い犯罪物語を披露して貰う、といったスタイルです。本作では、残念ながら往年の神の如き名推理は味わえませんが、国それぞれの思想や風土に裏打ちされた犯罪と結末が描かれ、実話とは言え不自然さが無く、語り口の上手さとあいまって極めてナチュラルな仕上がりになっていると言えるでしょう。古今東西の数ある犯罪の中でクイーンが集めた宝石のような各篇の選択の妙からは、彼の素晴らしい業績のひとつである名アンソロジストとしての側面もうかがわせます。ちなみに、日本からは帝銀事件がチョイスされています。
ただ一つ本作で私にとって首を傾げる最大の謎を考察してみます。それは事件の結末でエラリーが必ず間抜けな質問をする点です。名探偵クイーンが、まさかそんな馬鹿な訳はありませんから、語り手に敬意を表して(喜ばせる為に)わざとトボケて白ばっくれているのでしょう、というのが私の推理です。Q・E・D(証明終わり。)
他に、魅力的な解決されない謎の事件が2篇と、『事件の中の女』で、情熱・愛憎・狂気を感じさせる犯罪の世界の女性たちを、ドラマチックに描いています。
本書の手触りは、クイーン後期の成熟した大人の雰囲気を漂わせている感じがして、彼を愛するファンにとっては感慨深い味わいがあると思います。